一夜学生

朝、妙な緊張感で目が覚める。
次の瞬間、お金を払って緊張するなんて
おめでたいな、と思う。



今日から、ビジネススクール
マーケティング戦略の短期講座が始まる。



今日の授業のために渡されたケースは
専門家からみれば、おそらく遊びのようなもの。
それなのに、納得のいく結論が出せず、
そもそも、どう考え進めていけばよいのかさえ、
およそ検討がつかない。



今回のために購入した定番のコトラー本も
文字を上滑りするだけで、どう道具にすればよいのか、
しばし格闘するも、結論は出ない。



そんな状態で、当日を迎えてしまった。
本当のMBAコースなら、あり得ないんだろうな、
と思いながら。



思えば、これまで学校で
「答えのない問題」を解いたことなんて、なかった。
「答えのある問題」なら、出題者の意図を想像し、
あり得そうな解法をいくつか思い浮かべながら、
どこかに糸口が見つかるまで、うーーんと唸る。
すると、解ける。スッキリと。とても、気持ちよく。



でも、どうやら、今回それは通用しないらしい。




午後7時、教室に、25人ほどが集まる。
そして緊張は、ピークに達する。



それはつまり、
クラスのレベルが、想像をはるかに上回るものだったら…。
世間の平均的な水準より、自分がずっと低かったら…。
日頃の漠然とした焦燥感が、ついに現実にぶつかるのだろうか?
緊張感なく仕事をしていた、この何年間かを悔やむのだろうか?



そういう類の緊張である。
久しぶりに独房を出た、囚人の気持ち。
例えは悪いけど。



そんなこんなで、クラスは始まった。
真綿が水を吸い込むように、とまではいかず
なんとなく消化不良の感は否めないけれど
でも当初に心配したほどのものはなく、2時間半は
ほどよい緊張と、ほどよい発見と、ほどよい興奮の中で
終了した。



お金を出して、仕事のメソッドを学ぶ。
やっぱりそこに、違和感がないと言えば嘘になるけど、
会社の後に、別の活動があることは、楽しかった。




そういえば、子供の頃、
小学校に上手くなじむことができず、
その後に行く学習塾に、自分の居場所を求めていたっけ。
その頃の感覚が、ふと蘇った。
一気に秋めいて、肌寒くなった夜の帰り道。




やっぱり、勉強だって楽しくないと。
お金払っているのは、こちらなんだし。