真夏の座禅

バスは、恵比寿や表参道の
洒落た街並みを抜け、
目黒の住宅地を深々と進む。



バスを降りる頃には、
すっかり明かりもなくなり、
視野のほとんどは暗闇になったが
そのお寺の広々とした境内と、
そこに漂う静寂な空気は、
肌で感じることができる。




夜8時が近づくと、
重要文化財である釈迦堂に
どこからともなく人が集まってきて、
そこに用意された20席ほどは
あっという間に埋まった。



黄金に輝く釈迦像の前、若いご住職が、明朗に話を始める。



クジラの足を数えたことをきっかけに、それまでの作風を打ち破り、
ついに童話の名作を創り出すことができた、あるドイツ人作家の話。
スティーブン・スピルバーグが、スタンリー・キューブリック
「天才的な映画監督は、走るバスから降りられる勇気を持っている人だ」
という言葉で称賛した話。

つまり、現代人は、違和感を抱きながらも
自分で引いたレールの上を走り続けてしまうが、
川は岸に沿って流れるのではなく、川の流れが岸を形作るのだ、
云々。



そして慣れない読経の後、
電気が消され、鐘の音を合図に、座禅が始まった。




日中は30度を超した、紛れもない熱帯夜。
それなのに、ゆらめく蝋燭の灯りの中、
じっと静かに座っていると、不思議なほど
抜ける風がとても爽やかに、虫の音がとても涼やかに
感じられた。



仕事の後、約1時間かけてお寺へ行く。
たった25分、ただ、座るためだけに。


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円融寺

〒152-0003 東京都目黒区碑文谷1丁目22番地22号
TEL.03-3712-2098 

坐禅会(ちょっと坐ろう会)
毎月1回・最終水曜日
朝禅(午前8時〜)・夜禅(午後8時〜)