旅のはじまりⅡ
子供の頃、「将来の夢」を聞かれ
「わからない」と答えたら大人に怒られた。
きっと、大人になった自分は、
今の自分が知らない仕事をしているのだろうと想像していた。
そして、なぜか、そうでありたかった。
口にはしなかったけど。
学生の頃、心理学者や哲学者になりたいと思っていた。
でも、その頃の自分は、どうしてもそれらと、
社会的利益とを結びつけることができなかった。
そして気付いたら、金融の世界にいた。
そして今はこの場所から、
時代の背後に流れる人々の心理的や価値観の行方に触れたいと思っている。
>>「XXさんって、そういうオカルト的なことに
全然興味ない人だと思ってた。もっとこう白黒をはっきりさせるタイプっていうか・・」
XXは私の顔を見て真顔で言う。
「そうなのよね、でもね、だからこそ、こんな霊的なことに興味を魅かれて
首を突っ込んでしまったのかもしれない。人間ってバランスをとろうとするように
できているのよ。私には訳わかんないものが必要だったみたいよ」
そういうものかもしれない。臨床心理の世界は私には重すぎた。人の心に分け入る
暗い文学は、どこか自分と似すぎていて、私には担いきれなかったのだ。
だからバランスをとるため仕事を金融に選んだ。――田口ランディ 『コンセント』<<