プレゼンテーション

人気上昇中の戦場カメラマン、渡辺陽一が会社にやってきた。
お客さんを招いて開いた研修会の特別講師として。



講演開始から数分経った会場を覗くと、
すでに話の舞台はアフリカ内陸にあって、
彼は、壇上を動き回りながら、あの独特の話し方で、
全身で、内戦の惨劇を語っていた。
そこにいた誰もが、完全に、吸い込まれていた。



用事があり、そのあと10分しか、その場にいられなかった。
あの後、この話はどう展開し、どのような結末を迎えたのか
その話を通じて、彼が伝えたいことは何だったのか
それを具体的に想像することはできない。




でも、もしあの話を最後まで聞いていたら、
その時に自分が何を感じたかは、想像することができる。



「人に何かを伝える」とは、こういうことなのだと。



声の出し方だとか、抑揚のつけ方だとか、
身ぶり手ぶりだとか、ツカミだとかオチだとか、そんな問題ではない。
自分にしか伝えられない何かがあるという、自負。
それは人に伝えるに値するものであるという、信念。
そして、伝えなければならないという、情熱。



そういうものが、言葉に魂を宿し、人の心に届いたとき、
「プレゼンスキル」や「話法」などという表面的な枠を超えて、
初めて、感動を起こすことができる。




そういう素晴らしいスピーチは、世の中にたくさんあるのだろうけれど
映像ではなく、実物を見られたことは、貴重だったと思う。



伝える技術を身につけることではなく、
いずれ人に伝えるべき何かを持てるような人生を送ることに、
懸命でありたい。